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Text File  |  1994-11-16  |  6KB  |  110 lines

  1. =====================================================================
  2. 【タイトル】: もうひとつのパンドラの箱 Project PARTITA 第一話「認識」
  3. 【作    者】: わたりかに
  4. 【I  D】: わたりかに(GCD03574)
  5. 【著作権者】: しおみけいこさん
  6.               六角転送機さん
  7. 【転載条件】: ひみつ。
  8. 【加筆条件】: しおみけいこさんと六角転送機さんの許可があれば、自分に確認す
  9.               る必要はありません。
  10.  
  11. --【コメント】---------
  12.   しおみけいこさんの絵、そして六角転送機さんの話の加筆版です。
  13.   5枚程度のの画像組で、パルティータの脱走から追跡、そして最新鋭実験艦ダイ
  14. ナソアIIまでまきこんだ戦闘に発展していきます。今回はその第一話ですか。
  15.   話、画像の再利用してくださればうれしいですし、そういうわけで自分の許可は
  16. いりません。一身上の都合で、メールで加筆報告いただければうれしいです。
  17.  
  18. --【おはなしのはじめ】---------
  19.     //    序    //
  20.  
  21.   「何が違うというのです?」
  22.  
  23.   訪問者は静かに微笑んでそう答えた。そういう言い方をするなら、貴様はどう
  24. 違うというのだ。あのロボトミーされたかわいそうなソアと。
  25.   「何度も言ったはずだ。今はあんたらとの関係はダイナソアに関することこと
  26. だけだ。ダイナソアの中枢の開発を行い、そして外殻が完成して就航するまでは
  27. 機密保持のために姿を隠す。もう一度言っておくがな、俺はプログラマだ。相手
  28. にするのは制御卓とデータリンクシステムだ。有機脳なんて知らん。あんなガキ
  29. 共の子守をするすじあいはない」
  30.  
  31.   訪問者は落ちついていた。冷静に、正確に相手を知り、必要最小限の労力で自
  32. 分の目的を達成するタイプにみえた。ある意味では本物の天才なのだろう。しか
  33. し、人間であるために必要なある種のバランスを失っている。
  34.   -それ以前に、いけすかないタイプでもある。
  35.  
  36.   「悪い話ではないでしょう。あなたの悲恋を実現させるためには、想像を絶す
  37. る予算が必要になるし、この計画自体あなたの理論を証明することになるはずだ」
  38.   「あなたの力が必要だから、こうして機密事項の資料すらお見せしているので
  39. すよ。ここにいてお暇な間に、是非ひとつ簡単な仕事をお願いしたいのです。あ
  40. の新システムは情報の記録までは終わっています。あとはセットアップが必要な
  41. だけです。是非、システムの完成をお願いしたい。そう、システム・パルティー
  42. タの」
  43.  
  44.   訪問者の言葉を耳のすみでとらえながら、彼は渡された資料にもう一度軽く目
  45. をやった。名刺大のダイアモンドカードはそれ自体がホイヘンスモニタで、これ
  46. だけで様々なデータの分析ができるクソ高いやつだ。いけすかないタイプだ。
  47.  
  48.   「大体何を考えているんだ。よく知らんが、確かにオストワルド機構はすでに
  49. 遺伝子構築までできるようになったらしいな。しかしマトモな人間の遺伝子にワ
  50. ケのわからんクリスタルからのデータをぶちこんで急速成長させるとなりゃ、話
  51. は別だ。基礎情報はそのまま焼いて仕込みから三ヶ月でハードが完成、あとは人
  52. 工知能系に仕込みを入れる要領で教育をいれれば、実用生体兵器の一丁あがり、
  53. と。いくら原理的には人工知能系と同じでも、調子のよすぎる話だ。素直にいえ
  54. ば、これはむちゃくちゃだ」
  55.  
  56.   カードを端末に放りこむ。ヒトゲノムセットを捜し出し、星中論文のデータと
  57. 統合して軽く分析する間に、マグに残った紅茶をすすりこむ。ほんの数分前まで、
  58. 天上の美味だったロイヤルブレンドが、今では泥水のように感じられた。
  59.  
  60.   「しかもこんな妙な因子をぶちこんでみろ。心なんてものは肉体と共にあるか
  61. ら心なんだ。こんなんじゃ完成体はめちゃくちゃに不安定な物になっちまう。ち
  62. ょっとしたストレスで本人が発狂するだけならいいが、下手すりゃ再帰干渉様の
  63. 症状起こして数キロ範囲の脳ミソという脳ミソがローストになるぞ」
  64.   「いや驚きましたな。これだけの時間で、そこまで把握されるとは。まったく、
  65. 是非にでもあなたが欲しくなりました。是非、我々に協力していただきたい」
  66.   「何度でもいってやる。お断りだ。お前らにはやっていいことと悪いことの区
  67. 別もつかんのか。敗戦で倫理までなくしたか」
  68.  
  69.   訪問客は少し驚いた顔をしてみせた。もっともこいつが本心から驚いているか
  70. は疑問だ。むしろ、このままマグを投げつけても驚かないような気がする。こい
  71. つと会話するくらいなら、そのへんの彫像と漫才をするほうがよほど気がきいて
  72. いる。
  73.  
  74.   「どうにも困りましたな……もしあなたの協力が得られないとなると、私達は
  75. あるもので間に合わせるしかありません。現況で最良のシステムはまだ……」
  76.  
  77.   「ちょっと待て!」さすがに彼は訪問者の声をさえぎった。こいつはひょっと
  78. して、依頼してるのではなく純粋に脅迫しているのではないだろうか。こいつの
  79. やろうとしてることは、つまり。
  80.  
  81.   「貴様……なんてことを考えている。現況で最良のシステムだと?ダイナソア
  82. をまた苦しめるつもりか。いいか、ダイナソアは人間なんぞより圧倒的に高速な
  83. 情報ネットワークを前提にしたシステムなんだ。あれが育ちのいい女の子みたい
  84. におとなしくしてるのは、俺が育てたからだ。いくら改造されてるったって人間
  85. サイズにインストールしてみろ。インストールされた子供はおよそ貴様に想像も
  86. つかないような苦痛を味わったあげく、十人中九人までの脳がこんがりと……」
  87.  
  88.   そこまで言って、彼は気がついた。こいつはきっと、そんなことは気にしやし
  89. ない。およそ他人の痛みのわかる人間なら、そもそもこんな計画なぞするわけが
  90. ないのだ。結局、彼の負けだった。
  91.  
  92.   「わかった。どこに出頭すればいいんだ。どこへでも出ていってやる。いや、
  93. 後でメールよこしといてくれ。とりあえず今は貴様、出ていけ」
  94.  
  95.   「ありがたい、お引受けいただけますか。そうおっしゃるってくださると思っ
  96. ていましたよ。しかし一つ注文ですが、これから一緒に仕事をするのですから、
  97. そろそろ名前を覚えて欲しいものですなあ。次にお会いしたときは、ストライヤ
  98. ーさんと呼んでください、スレイマン博士。いや、ジョゼフ・スレイマン国連宇
  99. 宙軍予備役少佐とお呼びするべきでしたかな?」
  100.  
  101.   彼、ジョゼフ・スレイマンは一瞬青くなり、それから真っ赤になった。空のカ
  102. ップを投げつけた。こんなことなら紅茶を残しておけばよかったと思った。
  103.   当然のようにストライヤーは片手でカップを受け止め、手近なデスクにそれを
  104. 置いて、表情もかえずに部屋を出ていった。
  105.  
  106.   かろうじて個室のドアが閉まるまで、激怒しているポーズを維持することがで
  107. きた。それから彼は激しく震え、操作卓につっぷした。
  108.  
  109. =====================================================================
  110.